エイズの患者さんを診ようと思うんだけど
即答だった。千春さんは以前から、前述の親友に「日本ではエイズが怖い怖いと言われているけれど、大丈夫なんだよ」と聞いていた。また、物理学者だった父の仕事の都合で幼少時をドイツの田舎町で過ごし、地元の住民たちに支えられて育ったため、困った人を助けるのは当然とも考えていた。
鈴木さんも千春さんも、使命感というより、自分がやれることであればやろう、と考えていたという。ただクリニックのスタッフへの配慮から、陽性者の治療はしばらくの間、千春さんが鈴木さんのアシスタントを務めた。
最初に治療したエイズ患者は体調が思わしくなく、たびたび都立病院に入院した。退院すると自宅のある練馬区から車を運転して鈴木さんのクリニックに通っていた。鈴木さんが入院先の都立病院の歯科を紹介しようとしても「ばい菌扱いされるから、絶対にあそこへは行きたくない」と嫌がる。いよいよ体調が悪くなったころ、彼は言った。 歯科技工用技工機器
「先生ありがとう。誰も診てくれなかった私の歯を治療してくれて。でも体がつらくて、もう通えない」
鈴木さんは「また会おうね」と言って送り出すのが精いっぱいだった。数カ月後、帰らぬ人となったと伝え聞いた。 歯科レントゲン
エイズは81年に世界で初めて確認され、日本でも80年代後半から患者が報告され始めた。センセーショナルに取り上げる報道は絶えず、2次感染を恐れた人々による差別や偏見も根強かった。しかしその後、治療方法は飛躍的に進歩した。適切な時期に治療を始めれば、服薬によって血液中にあるウイルス量は「検出限界以下」にコントロールされる。性交渉時に感染予防をしなかったとしても、感染しないレベルであることも明らかになっている。
鈴木さんのクリニックに特別なものは何もない。患者を診療台で分けたり、診療台をビニールで覆ったりすることもない。スタッフの格好も同じ。HIVより感染力の強いウイルスにも対応できる消毒や滅菌を取り入れ、患者が入れ替わるたびに、使った器具もすべて滅菌する。感染の有無にかかわらず、全ての患者を対象にする。誤って患者の血液に触れた注射針などを医療者が刺してしまう「針刺し事故」が起きても、すみやかに薬を服用すれば感染は防げる。鈴木さんもHIV陽性者の歯石を取る器具で手を切ったことがあるが、その患者のウイルス量は「検出限界以下」だったため流水やアルコール、次亜塩素酸で消毒。HIVの抗体検査はずっと陰性だ。
HIVに感染している50代の男性は98年、鈴木さんのクリニックを訪れた。大学病院で「恐る恐る治療をされた」経験があったため、ざっくばらんな鈴木さんやスタッフの姿に驚いたという。「80年代後半は差別、差別の毎日だった。この世にいない方がいいんじゃないか、と思ってしまうほど。でも鈴木先生のような人がいるから、自分も生きていける」
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